今回は、コンディショニングのなかでもパフォーマンスアップやケガ防止に役立つ、ウォーミングアップのひとつとして『ストレッチ』についてのお話です。
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筋肉の温度を上げる

運動をする前に、誰もが必ず取り入れているウォーミングアップ。
これには、ただの準備運動ではなく、目的はいくつもあり、ひとつひとつの動きが重要な意味を持っています。
その1つが、『筋肉の温度(筋温)を上げること』です。

確かに『warming-up = ウォーミングアップ』ですから、『カラダを温める』ということです。
筋肉の温度を上げることで、乳酸を分解する酵素が活発になったり、体温が上昇すると血液の循環が良くなり、酸素がスムーズに身体に行き渡るようになります。

みなさんも運動前にやっているストレッチもウォーミングアップには効果的です。

しかし、運動前は、今から行う運動に近い動きで行うストレッチが『アクティブ・ストレッチ』です。

代表的なものでいえば、サッカー経験者なら『ブラジル体操』、野球なら『マエケン体操』です。

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アクティブ?パッシブ?

まずストレッチは、アクティブとパッシブに大きく分類されます。
アクティブストレッチは、自動的ストレッチともいわれ、他(人や物など)の助けを借りずに、自分でカラダを動かしながらストレッチをすることを言います。
このストレッチを行うには、相当の筋力がないとできません。

反対に、パッシブストレッチは、他(人や物)の助けを借りて、他動的にカラダをストレッチします。
一般的に言われるストレッチはこれに当てはまります。

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☝パッシブストレッチ
☝パッシブストレッチ
☝アクティブストレッチ
☝アクティブストレッチ

この2つの写真は、ストレッチしている部位は同じです。
違いは、拮抗筋なのですが、これは重力に対してどう働いているかなのです。

ストレッチの種類とは?

ストレッチには大きく分けて、2つの種類があります。
ひとつは、運動後や睡眠前などリラックスした状態で行う『スタティックス・トレッチ』、もうひとつはカラダを動かしながら行う『アクティブ・ストレッチ』です。
『アクティブ・ストレッチ』は、『ダイナミック・ストレッチ』と『バリスティック・ストレッチ』に分けられます。

 スタティック・ストレッチ

『スタティック・ストレッチ』のスタティックは、静止した(static)という意味です。
カラダを静止させ、反動を使わずに関節の可動域を段階的に増していき、無理のない程度に筋肉が伸ばされた状態を保持し行う方法です。
伸ばしたい筋肉にアプローチするので、ストレッチを行っているときは、伸ばそうとする筋肉がちゃんと伸びているのかが大切です。
呼吸を行うことにより、副交感神経の作用で心拍数が抑えられ、全身のリラックスへとつながります。
スポーツでは、クールダウンが有効です。

 ダイナミック・ストレッチ

カラダの動きを利用しながら、リズミカルに行うストレッチです。
拮抗筋を収縮させて二次的に伸ばしたい筋をストレッチしていきます。

大腿四頭筋が収縮することにより、二次的に拮抗関係にあるハムストリングが前後の筋のバランスをとるようにストレッチされていくという仕組みです。
反動をつけるといった点ではバリスティックストレッチと共通していますが、伸ばしたい筋へのアプローチの仕方が変わってきます。

スポーツでは、ウォーミングアップのストレッチとして有効です。

 バリスティック・ストレッチ

動きの中で行うという点では、『ダイナミック・ストレッチ』と意味合いは変わらないのですが、動きに反動や弾みを利用して行うストレッチです。
筋肉の反動を使い、少し弾みをつけながら筋と腱を伸ばしていくストレッチ方法です。

この『バリスティック・ストレッチ』にもアクティブとパッシブがあり、『アクティブ・バリスティック・ストレッチ』は体育の授業でやったような、ストレッチする本人が反動をつけながら前屈し、指先でつま先を触るようなストレッチです。

こちらも、スポーツでは、ウォーミングアップのストレッチとして有効です。

この2つは、本格的に運動(スポーツ)の動作に入る前に、関節と筋肉の伸縮をテストするということです。
実際に行うプレーに近い動きをしながら、徐々にスピードをつけて、関節と筋肉が伸び縮みしても平気ですという状態で練習に入っていくためのストレッチということです。

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『アクティブ・ストレッチ』は、アクティブ(active)なので積極的にカラダを動かして行います。

そして『スタティック・ストレッチ』は伸ばしたい筋肉にアプローチするのに対して、『アクティブ・ストレッチ』は伸ばしたい筋肉と反対側の筋肉アプローチします。
どういう事かと言うと、例えば、肘を曲げて腕の筋肉を伸ばす時です。
肘を曲げる時は、上腕二頭筋の筋肉が縮んで肘の関節が曲がります。
これに対して、裏側にある上腕三頭筋肉が伸びます。
このように、ある筋肉を縮めるときは、同時に反対側の筋肉が自動的に伸びる仕組みになっています。
この人の仕組みを利用したものが『アクティブ・ストレッチ』なのです。

『スタティック・ストレッチ』は伸ばしたい筋肉を直接伸ばし、『アクティブ・ストレッチ』は伸ばしたい筋肉の反対側を縮めることで間接的に伸ばします。

『アクティブ・ストレッチ』の利点のひとつは、伸ばしたい筋肉へ直接アプローチしないということです。
『スタティック・ストレッチ』に比べてかかる負担が少ないため、運動前に取り入れると、筋肉を傷つけずにストレッチすることができます。
さらに、動きながら行うため、関節可動域が広がり、関節の動きを滑らかにする効果が期待できます。

このようなことから、今では、数々のスポーツ種目でも取り入れられるようになってきました。

『アクティブ・ストレッチ』で本格的な動作へ

今回は、先程も出たサッカーの『ブラジル体操』を例にご紹介します。

『ブラジル体操』は、正確に言うと『アクティブ・バリスティック・ストレッチ』です。
現在のサッカー日本代表でも試合前のウォーミングアップでも取り入れられています。

ジョギングやスキップをしながらリズミカルに手足を動かす『ブラジル体操』は、関節の可動域を反動を利用して広げることが目的のストレッチです。
関節の可動域を広げ、体のコンディションを整え、筋肉の機能を上げることにより、プレー中のパフォーマンスの向上やケガを予防します。
激しい動きをするスポーツでは特にコンディショニングとケガの予防という観点から非常に重要です。

※参考文献
阿部良仁・岩間徹・矢野雅知 『パーソナルトレーナーズバイブル』 スキージャーナル株式会社